よかったらクリックしてやって下さい
ば、ば、ばなーにほんブログ村 その他日記ブログへ

2007年12月16日

アリとキリギリスとセミとバッタとカマドウマとetc 後編

ここはキリギリスさんの住処。

床には数え切れないほどの酒瓶が転がっています。

キリギリスさんはグラスを掴んだまま眠っていました。

若草色に輝いていた翅は変色して赤茶けてしまい、ところどころが破れています。

カマドウマは毛布を持ってくると、キリギリスさんに被せようとしました。

しかし、その際にキリギリスさんは目を覚ましてしまいました。


「ごめんなさい、起きちゃいましたか」


「‥‥‥カマドウマか」


キリギリスさんは、軽く首を振って起き上がりました。

カマドウマは何も云わず、毛布を再び仕舞いに戻ろうとします。

その時、キリギリスが声をかけました。


「…いつまで、ここにいるつもりだ?」


その声は落ち着いていて、出て行って欲しいというよりは、出て行かないことを不思議がっているように聞こえました。


「出て行けと言われるまでは、ここにいるつもりです」


カマドウマは笑いかけるように答えます。

キリギリスさんは何も言いません。

ただ「そうか」と呟いて、持ったグラスを見つめていました。


と、その時。


「キリギリスはいるかぁ!」


大声と共にバッタさんが飛び込んできました。

普通、喚きながら飛び込んでくる奴はいません。

突然のことにキリギリスさんは言葉もありませんでしたが。

入ってきたのがバッタさんだと分かると、気まずそうに顔を逸らします。


「バ…バッタか、今更何の用だ…」


「なんだじゃねぇだろ、馬鹿野郎!」


逆ギレです。

呆然とするキリギリスさんでしたが、バッタさんはお構いなしに続けます。


「どっちにするか決めろ、お前が決めろ!」


「な…何をだよ…」


「何でもいいだろう!」


「よくねぇだろ」


「当たり前だ!!」


もうどうしてくれよう、このクソ虫って気持ちで。

キリギリスさんもタジタジとしていたわけなのですが。


「落ち着いてください、バッタさん」


カマドウマが間に割って入りました。


「カマドウマ、一応お前にも聞く」


「え?」


「どっちだ?」


「何が…です?」


「コンサート」



「「 コンサァトォォ!!? 」」



二人の叫びが重なります。


「そうだ、セミの容態が良くない、最後にみんなであの曲を演奏する、それがあいつの望みだ! やるのか、やらねぇのか、どっちだ!? 何度も言ってるだろうが!!」


初耳ですが、ようやく話の内容が見えてきたキリギリスさん。

セミさんの容態が良くないと聞き、その表情が険しくなります。


「どういうことだ、詳しく話せ」


「セミが死にそうだ」


「うん」


「最後にあの曲を歌いたいらしい」


「うん」


「終わり」


「早っ!」


バッタさんはなおも続けます。


「ここで立たねぇなら、もう知らん。てめぇがその程度の奴だったってことさ。俺とセミだけでやる」


「‥‥‥‥‥」


「どうする、やるのか、やらねぇのか!?」


「俺は‥‥‥」


キリギリスさんは迷いました。

そもそも音楽を続けたいといっていたのはキリギリスさんで、辞めるといったのはバッタさん達の方です。

何か逆のような気がして腑に落ちないのですが、まあ話がややこしくなるだけなので飲み込みました。

と、その時。

キリギリスさんへ大きな塊が放り投げられました。

黒いギターケース。

カマドウマが投げたものでした。


「この日が来ることを信じて、毎日欠かさず手入れをしていました。いつでも演奏可能ですよ」


「カマドウマ…」


キリギリスさんは、ギターを手に取りバッタさんへと向き直りました。



「やるぜ、最高の音楽を聞かせてやる!」







心優しいアリさんが空き地へ辿り着いたとき。

周囲には沢山の虫たちが集まっていました。

コオロギさん、ダンゴムシさん、クツワムシさん、その他色々な虫の群れ。

みんな一列に並んで何かを待っているようです。

アリさんは不思議に思って聞きました。


「みなさん、どうしたのですか?」


コオロギさんが答えました。


「これから、キリギリスさん達のコンサートがあるんだよ」


アリさんは驚きました。

この段階にあってまだ歌っているのか、あの人たちはと。

呆れたような感情がこみ上げてきます。

もうすぐ冬です。

食料を集めるわけでもなく、気楽にコンサートとは何事か。

こっちはパーティーを抜け出してまで来てやったのに。

と、かなり手前勝手な怒りに震えていました。


しばらくして、積み上げた石の上にキリギリスさん達が現れました。

バッタに肩を貸してもらいながらセミもいました。

一応カマドウマもいます。


「みんな、待たせたな!」


キリギリスの大声と共に歓声が上がります。


「いっくぜぇ! 最後のコンサートをよ!」


ワァァアァアアア!!



透き通った秋空の下。

虫たちの歌声は響き渡ります。

最初は少なかった観客も。

歌声に誘われて、一匹、また一匹と増えていきます。

どれも冬を越せない一夏限りの生しか持たない虫達の生き残りでした。

彼らは、キリギリスさん達の演奏の向こうに何かを見ているようでした。

何を見ているのでしょう。

何を思ったのでしょう。

今にも倒れそうなセミさんが。

バッタさんに支えられながらも、歌い続ける理由は何でしょう?

それは虫達にしか分からないことです。


気付けば、空き地は虫で埋め尽くされていました。

天敵であるはずの蜘蛛やカマキリまで、その歌に聞き入っています。


アリさんは小石に腰をかけて流れる歌を聴いていました。

アリさんは巣穴で冬を越すことが出来ます。

それゆえに。

彼は、この虫達の輪に入れないのです。

それは少し寂しいような気分にさえさせます。

それでもアリさんは覚えようとします。

耳に残そうとします。

以前はうるさいとさえ思えたその歌を。

ここにいる虫達は冬を越せない。

だから、この歌を残せるのは冬を越せるアリさんしかいないのです。


その時、アリさんの前に意外な虫物が現れました。


「…相変わらず下手くそな歌だね」


「進歩ってものが見られないよ」


アリさんの仲間たちです。

パーティーに参加していたはずのアリさんの仲間達が集まっていました。


「え、みんな…どうして」


彼らはお互いに顔を見合わせてバツが悪そうに笑います。


「キミが心配でね、探しにきたんだ。そしたら…」


そういって、キリギリスさん達の方を向きました。


「下手くそだけど…一生懸命なんだね、あいつらも」


「うん、それに観客も楽しそうだよ」


「なんでだろうな…あいつらを羨ましいって思えてしまうのは」


心優しいアリさんは、キリギリスさんが以前自分に向かって言った言葉を思い出しました。

「キリギリスさんは言ってたよ、未来は今の延長なんだって」


「え?」


「だから、今を一生懸命に生きるんだって。僕らにはそれが足りなかったのかもしれない」


「今を生きる…か」


もう誰も口を挟みません。

ただ黙って彼らの演奏に耳を傾けます。





空は高く。


声はどこまでも続いておりました。









時は流れ、季節は冬。


賑やかだった空き地も今は雪が積もるだけ。


物音一つしないそこに生き物の気配はありません。


虫達はみんないなくなってしまったのでしょうか?


いいえ、そうではありません。


土の下では彼らの子供達が春の訪れを待っているのです。


夏がくれば、再び歌声が響くことでしょう。


一夏限りの命の歌を。









をわり。
posted by 水卿 at 21:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。